ある日、私は一体のブロンズ像に出会いました。
「虹のむこう」というタイトルがついた、
傘を抱えた、少年の像です。
正直、私はこれまで銅像には関心がなかったのですが、
このブロンズ像には強く惹かれました。
まず、そのタイトルに心奪われました。
夢と希望が詰まった、素敵なタイトルだと感じ入りました。
そして、いざその像を目にしたとき、私はハッとしました。
像の表情に、ある卒園生の面影を見つけたからです。
一瞬、その卒園生が園に戻ってきたかのような感覚にとらわれました。
じーんときて、涙がこみあげてきました。
私は、なにか、縁のようなものを感じて、
像を持って来られた方に、その由来を訪ねました。
「この像は、作家自身の思い出の像なのです。
少年の頃、傘を持ってお父さんを駅に迎えに行った、
そんな思い出をカタチにしたものだそうです。」
あぁ、そういえばそうだったな、と私は思いました。
昔は雨が降ると、子どもは親のことを想い、親は子どものことを想い、
傘を届けあう光景がよく見られたものです。
決して豊かとは言えなくとも、家族がお互いに
支えあって、役割を分けあって暮らしていた日々でした。
そう、家族それぞれに、親には親の、子どもには子どもの、
役割があり、責任があったと思います。
今は、大人の役割といえば
子どもを大切に守ってあげることだけに目が向きがちだけれど、
子どもたちに、たくましく生きていける力を身につけることが
本当に大切な大人の役割ではないのかな、と改めて思いました。
葛島保育園は、この像を置くことに決めました。
それも、ただ置いておくだけではなく
この像をとおして、子どもたちに、思いやりや、責任感、
やり遂げる力などの「生きる力」を学んでもらおうと考えたからです。
名前もつけて、みんなが自然と語りかけています。
今では、「葛っちゃん」の後ろに一枚の絵が掛かっています。
この絵は、保育園で開いている絵画造形教室の生徒が
みんなで描いたものです。
子どもたちに、この像の由来や「生きる力」について
お話をしながら描いた絵です。
季節が変わるごとに、新しい絵を描くことにしています。
季節が移ろうたびに、「葛っちゃん」の世界の季節も変わります。
そのたびに「葛っちゃん」の想いが、子どもたちに伝わっていく事でしょう。
葛島保育園 園長 林 美佳