梅雨の「虹のむこう」






よかった、駅が見えた。
久しぶりだったので、道がよく分からなかった。
途中で不安になって、何度も引き返そうかと迷ったけれど、
がまんして歩いた。がんばってよかった。

前に駅に来たのは、去年の秋ごろだったと思う。
今日と同じで、お父さんに傘を届けに来た。
お母さんに描いてもらった地図を見ながら歩いた。
今日と同じ夕方の5時ごろだったと思うけれど、
辺りは真っ暗で小雨がパラパラと降っていた。
なんにもない道を、懐中電灯をたよりに、とにかく歩いた。
とても怖かった。

でも、今日はずいぶんと景色が違った。
前と同じで小雨が降っているけれど、まだ明るい。
それに、一面のあじさい。
むらさきと、ももいろと、白がまだらになって、どこまでも続いている。
うわぁ〜、きれいだな、と一瞬は思ったけれど、
えっ、駅ってこんなところだったっけ、という、
どよんとした不安の雨雲が、みるみる心に押し寄せてきて、
正直、景色どころじゃなかった。

でも、駅が見えたとたんに、
カーテンを開けたように、ぱっと景色が目の中に飛び込んできた。
一面のあじさい。
それに、駅の向こう側には大きな虹もかかっている。
なんだか、今の僕の気持ちを、そのまま景色にしたような、
とても透明で、得意げで、キラキラした風景。

遠くから、踏切の音。
カタン、カタン、と線路の鳴る音もかすかに聞こえてくる。
ホームを見ると、手旗をもった駅員さんの姿が見える。
あぁ、ちょうどいい時間だったな。
お父さんの汽車、もうすぐ着くな。